ひかり座間味島に暮らす小学6年生の女の子。
みつひかりの祖母(オバー)。戦争体験者。
ここは沖縄県那覇市から西へおよそ40kmの東シナ海に浮かぶ「慶良間諸島」。小学6年生のひかりは、その中のひとつである座間味島に暮らしている。ひかりの家は昔ながらの赤瓦の家で、両親は農業を営み、70年以上前に戦争を体験したみつオバー(祖母)もいっしょに住んでいる。学校から帰ったひかりは、縁側でみつオバーが作ったおやつのサーターアンダギーを食べながら、前から聞いてみたかったことを話してみた。
あのさ、みつオバー、昔の沖縄で戦争があったって本当ね~?
…そうだよ~。あれはオバーがひかりよりちょっとお姉さんになった頃だったよ。とても怖かったさ
戦争が起こる前、島はとても平和でね。今よりももっと海も空も本当にきれいだったさ。島には畑が広がっていて、花もたくさん咲いていたよ。みっちゃんも家族もそんな島が大好きだったさ
ひかりも座間味島がだーいすき!
みっちゃんの父ちゃんや母ちゃんは両親といっしょに畑を耕して、野菜やイモを育てていてね。みっちゃんは学校が終わったらよく手伝いをしよったさ
そういえばその頃から島にはクジラが来ていたの?
そう、来ていたよ~。みっちゃんは友達や兄弟といっしょに山の上に登って、よく海を見ていたさ。春になると海を泳ぐクジラがたくさん見られたんだよ
だけど島で戦争がはじまって、すべてが変わっていった。空襲が起こるたびに、家族みんなであわてて学校の裏山に隠れたんだよ
空襲って?
米軍が飛行機で島の人々を攻撃してくるわけさ
え? 本当に? どうして攻撃するの? 島の人は何も悪いことしていないのに…
それが戦争なんだよ。みっちゃんは穏やかな島の暮らしを奪った戦争が本当に嫌だった。でも島の空襲は何回もあってね。そのたびに島の人たちはみんな必死で逃げた。誰も死にたくなかったからね。中学生だったみっちゃんも一生懸命に逃げた。死にもの狂いで走ったさ。もう無我夢中だった
でもね、何度目かの空襲で島の家々はみんな燃えてしまった。ひとつも残らなかったさ。みっちゃんの家ももちろん燃えたよ。島の人は逃げ場を失って途方に暮れてしまった。だって今まで暮らしていた大事な家だもの。みっちゃんも泣きたいぐらい悲しかった
でも、がまんしたよ。島の人たちとみんなでガマ(防空壕)を掘って、その中に逃げこんだんだ。みっちゃんとお父さんやお母さん、オジーやオバー、みっちゃんよりもっと小さい子供たちもみんなで逃げ込んで、空襲が終わるまでじっと息をひそめて隠れていたよ。これからどうなるんだろうと不安でいっぱいだった
そうこうしているうちに、とうとう、米軍が島に上陸してきたんだ。大人の話では、どうやら夜のうちに上陸したということだった
そして、みっちゃんたちが隠れているガマの中にも米兵が拡声器を使って英語で何か呼び掛けてきたよ。みんななんて言っているのかわからなかったけど、島の人の中に英語がわかる人がいてね、『殺さないから出てきなさい』と言っていたらしい。でも信じていいのかみんな迷っていたよ。だって空襲で攻撃をしかけてきたのは他でもない米軍だったからね
でもガマにいつまでもいられるわけでもない。かぶっていた布団をおいて、みんなが出ていこうかとしたその時だった!
今でもなぜそうなったのかわからないけど、ガマの中に日本兵がいると思われてしまったのか、突然、米兵がガマめがけて手りゅう弾を投げ込んできたんだよ。すごい音がして、みんなとても驚いた。しかもそれは、運悪くみっちゃんのお母さんにあたってしまった
ふとお母さんを見ると、顔も頭も血だらけで、見るのがもう怖いくらいの大けがをしていてね。ガマには大勢の人がいたけど、みっちゃんのお母さんにだけ手りゅう弾があたってしまった。『なんでお母さんだけにあたったの? かわいそうなお母さん』みっちゃんは本当に悔しくてたまらなかった。本当に無念だったよ
みっちゃんのお母さんは頭からも顔からもたくさんたくさん血が流れてね。でも、ガマの中にはお医者さんなんていない。救急車もないし、病院もないからね。誰も助けてあげられないまま、しばらくしてお母さんは動かなくなった
『お母さん、お母さん、目を開けて、返事をして!』みっちゃんは悲しくてお母さんのことを呼び続けながら、その身体を揺さぶってみた。でも、何度そうやってもお母さんの目が再び開くことはなかったんだよ。大好きなお母さんは死んでしまった。ガマの中にみっちゃんと家族の泣き声がいつまでも響いていただけだった
その後、みっちゃんのお母さんは担架で米兵に運ばれていった。みっちゃんや家族や島の人々はやっとガマから外に出て、米兵に船で座間味に移されたんだよ。でも住むところはないから、島の中の桟橋やガマ、お宮など、いろいろなところに入って寝泊まりをしたよ
しばらく経ってから、みっちゃんのお母さんが阿嘉の浜に埋葬されたといううわさを聞いて、そのなきがらを掘り起こして座間味に持ち帰ってあげたんだよ。みっちゃんや家族は、土を盛っただけの粗末なお墓にお母さんを埋めてあげた。お母さんはやっと家族の近くで安らかに眠ることができたんだね
あの恐ろしい戦争から70年以上が過ぎたけど、オバーは飛行機の音がすると、また空襲かもしれないって怖くなる。みっちゃんのように戦争を体験した人はきっとみんなそうだと思うけど、戦争のこと、ガマのこと、米軍の空襲のこと、手りゅう弾で死んだお母さんのこと、どれも決して忘れることができないんだよ
そして思い出すたびにチムグルサッサー(胸が苦しくなる)。涙が自然とあふれてくる。戦争は多くの人の心に大きな傷跡を残したんだよ
ひかりは大好きな家族がもし、突然いなくなったら悲しいよね?
絶対に嫌だよ!そんなのダメ!!
でもね、もしまた戦争が起こったら、たくさんの人が死んだり、街が焼け野原になってしまうさ。オバーはもうみっちゃんと同じ悲しい想いを誰にもして欲しくないわけ
ホントだね。戦争は絶対にしちゃいけない!!
そう。『ぬちどぅ宝』。命こそが一番大事なものだよ!
平和が一番。命が大切! ひかりもいつか出会う大切な我が子に、このことを絶対に伝えるね
お願いね。ひかりたち世代の若者たちが座間味の島の平和を守っていってね
みつオバー、まかちょーけー(まかせて)!あり(ほら)、ご先祖さまもみんな見てる前でしっかりと誓うからね